ちぎれた足のへや

変な汁を出す

ネカフェはかなりいい

 北海道に来た。

明確なやりたい事もなく、金と着替えだけ持って宿も取らずに単身飛行機に乗り込み、着いた新千歳空港はどしゃ降りだった。ファーストインプレッションはかなり良くない。

 

迎えに来てくれたフォロワーの車に飛び乗って、適当な北海道の解説を聴きながら最高のドライブをした。雨は止んでいなかったがこの時点でもう北海道来てよかったなと言う感じがあった。

 

初日はカラオケでギターを弾いたり、その他なんのかんのとして気づいたら公園のベンチだった。寝心地が良くなかった事を体の痛みが物語っている。

朦朧とした意識で地下鉄に乗り、適当なネカフェに転がり込んで眠った。その時にはまだ、自分はネカフェの真価に気づいてなかった。

 

2日目の夜、自分はネカフェを大いに楽しんだ。北海道で本場のゴールデンカムイを読み、ドリンクバーから無限に湧いてくるメロンソーダで喉を潤し、パソコンでライオンがおしっこしている動画を見る。喫煙席なのでタバコだって吸えてしまうし、必要があれば自販機でアルコールも手に入れられる、屋根と空調があるだけで充分なのに、この天上の楽園のような場所に、2.000円払うだけで半日以上滞在出来る、何と素晴らしいのだろうか。さっき適当に入った居酒屋でぼったくられた事や、公園で中国人の子供が騒いでいた事、中国人の子供が去った後に音もなく現れた犬のような謎の生き物の事などもう頭になかった。快楽だけが自分の周りに空気として満ち満ちていた。

周りに他の利用者が大勢居るのもいい、壁一枚隔てて誰かが隣にいるのは、たとえ他人であってもなんとなく頼もしいものだ。何処からか寝返りの音や咳払いが聞こえるのはなんとなく修学旅行の夜を彷彿とさせる。個室を出れば他の利用者とすれ違うのも面白みがある。

 

ウキウキしてしまって寝られないので、メロンソーダを汲みに行くついでになんとなく漫画を手にとってみた。前から読みたいと思っていたものである。

 

 

 阿部共実の作品である。

 

 

一言で言えば、完全に失策だった。

誤解を招かないように先に弁明しておくが、本当に面白かった。異常なほどに。

 

ただ、ページをめくるごとに漂う緊張感と這い回る焦燥感は自分を楽園という名のネカフェから追い出し、冷たい石壁の部屋の椅子にくくりつけてしまった。

 

その部屋は不自然に縦長の作りで、長い長い廊下の先に拳銃を持った誰かが佇んでいる。

そいつはゆっくりとこちらへ近づきながら、時に掠めるように、時に的はずれな方向へと銃弾を放っている。

ある程度距離が詰められ、あと数ミリで自分の体を撃ち抜かんばかりの射撃も増えて来た、そしてついには自分の額と、銃口の距離はゼロになってしまう。

 

やばい、もうダメだ、撃たれる、死んでしまう。

 

 

かちり。

 

 

間抜けな音が響いた。

 

 

どうやら弾切れか、と安堵したのもつかの間。

 

グリップでこめかみの辺りをしたたかに、したたかに打ち付けられる。

 

そんな漫画だった。

 

 

気づけばネカフェの部屋に戻っていたが、こめかみから広がる鈍痛が全身に響いて立ち上がる事もままならない。今すぐ眠りたいが心が波立ってかなわない。さっきまでの幸せな空気は完全に何処かへ行ってしまい、自分は途方に暮れた。

 

 

 

 

 

 

結論、ネカフェで阿部共実作品を読むな。